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※二次創作注意報② (ジャンル:コナン)
――ラスティ・ネイル(腐った釘)
やらずに後悔するよりもやって後悔、なんて、ああなんと意味もない言葉だろう。
満月が地平線の端に沈むころ、薄桃色に染まる空を霜が張り付く窓越しにそっと見やる。今日はさぞかし良い天気になるだろうなとか、どうりで昨夜は満月が綺麗だったとか、それが既に現実逃避の片鱗を見せていることは意識のすみに追いやって。
窓越しに感じる外の冷気。
冬の空気はなんて清々しいんだろうと、対照的な退廃的に淀んだ倦怠感に包まれる室内を見渡す。
ぐるりと視線をめぐらせて一週。一番見たくないものが視界に入る。
すなわち、稀代の名探偵である彼の。
言い訳させてくれ、本当に。
誰に言うでもなく自分に言い訳をしたい。
やれやれ、と思わずこめかみを抑える。
頭痛も気のせいじゃない。
確かに昨夜は盗みに入った美術館から逃げる途中、自分の予告状の暗号を解いた彼と鉢合わせした。
まさかあんな難解な暗号を解ける人間がいるとは思わなくて。
自分の逃走経路はここですよ、逃げも隠れもしませんよ、とご親切にも示した暗号。
自分を捕らえて牢獄に繋ぐつもりの警察に見つかったら大変だが、どうせ誰も解けはしないとわかっていたから。
まだ自分は捕まるわけには行かない、でも見つかりたい、自分に気づいてほしい、そんな一抹の矛盾を込めて。
どうせ誰も自分に気づきはしないと、そう思ってビルの屋上に降り立った時だった。
「あの暗号には時間が書いてなかったから、もう2時間もここで待ってたんだ、今夜こそ捕まえさせろよ」
そう言って不敵に笑って差し出された名探偵の手は、確かに氷のように冷たく、しかしこの高揚感を冷ますことはなかった。
冷える体に反比例するように沸騰する思考。
だからだろう。
――カチャリ
手錠の片方を掛けられても思わず微笑んでしまったのは。
それはオモチャの手錠。
月明かりで銀色に輝いてはいるけれど、ちょっと爪をたてて削れば材質のプラスチックの下地がすぐに見えそうな。
――カチャリ
オモチャだからちょっと鎖輪のつなぎ目を引っ張ればすぐにとれるけどな。
そう言って笑って、名探偵は彼自身の片手にもそれをかけた。
その笑みがあまりに自分に似てたから。
「そんなもったいないこと誰がするかよ」
そう言ってそのちょっと力を込めればすぐにも壊れて千切れてしまいそうなプラスチックの鎖を引き寄せたのは紛れもなく自分だ。
だから後悔なんて。
そのままなし崩し的に名探偵をハングライダーで連れ去り。
行く場所は思い浮かばなかったから彼の静かな屋敷に。
本に埋もれた邸内は間違いなく彼のすみか。
そんなことにも嬉しくなってしまう自分は末期だ。
片手同士を繋いだ鎖が邪魔で、服が中途半端に体にひっかかっている。
それでもお構いなしに
かみつくようなキスをして
長い睫毛に唇を落として
鎖骨をなぞり、
両手の指を絡ませて。
時折位置を入れかえ
触れ合って
熱を貪り
足を開かせ
楔を打ったことは言い訳をしない、しないけど。
気持ちよかったから、相手も気持ちよさそうだったから、だからこそ、
なんて不毛な関係なんだろうと隣に眠る彼の裸体を見る。
彼が繋いだオモチャの手錠はとっくに千切れていて。
いつの間にか、いや、始める前から壊れていたかも、なんて考えたらばからしくなった。
やはり苦しかったのか眉を潜めたまま眠りに落ちている彼の頬を指先でなぞるとふいに彼が目を覚ました。
ぼんやりと焦点を結ぶ蒼い瞳。
その網膜に自分はどう映っているのか考えるだけで胸は踊ったけれど。
「昨夜盗んだ宝石、名探偵から返しておいてくれよ」
そんなことしか言えない自分は怪盗で。
「そのヨレヨレのベタベタのマジシャン姿で帰る気か」
彼がそんな怪盗としての自分を認識してくれてるのは何故か心地よいのは分析不可能な感情で。
「では何か服を貸していただけますか?」
しかし心臓の奥底に腐った釘がささったままなのは。
「めんどくさいから全部脱いじまえよ」
そう伸ばされてる手に惹かれる自分も。
もう遅いのだ、なにもかも。
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